会頭挨拶

この度、第28回日本小児リウマチ学会総会・学術集会の会頭を拝命しました、東京医科歯科大学 生涯免疫難病学講座の森 雅亮です。このような機会を与えてくださいました、会員の皆様に感謝申し上げます。

さて、今回のテーマは『小児リウマチにおけるエビデンスと移行期医療の構築を目指して』としました。

ご存知のように、『エビデンスの構築』の中核をなすランダム化比較試験(RCT)は小児では数少なく、まして小児リウマチ領域では言わずもがなです。しかし、幸いにも私は臨床研究、基礎研究いずれでも、臨床の現場にある些細な疑問から端を発して時間をかけて実を結んだ事例を、これまで身近にいくつか見て経験してきました。エビデンスがないなら、自分たちのデータから創出していくしか方法がありません。その意気をもって、本邦の小児リウマチ領域だからこそ成し遂げられる、成人リウマチ領域にもなく、外国にも存在しないオリジナルなエビデンスの構築を目指す・・・。それではどのようにして、どんな手順で研究をして行けば良いのでしょう?それを真剣に考える機会になる学術集会にできたらと考えています。

また、小児期医療の進歩により、これまで難治であった患者さんを救命もしくは寛解・治癒に導くことが出来るようになりました。このことは喜ばしい限りです。しかし、それに伴い原疾患もしくはその合併症、後遺症を抱えたまま成長し、思春期、成人期を迎える患者も増加しているYoung Adults with Special Health Care Needs(以下, YASHCN)と呼ばれる患者さんが年齢を重ねるごとに、成人の病態の比重が増していくことも事実です。若年性特発性関節炎(JIA)においても同様の状況が窺い知れます。生物学的製剤をはじめとする治療の進歩によって、小児期の関節破壊進行を抑え、思春期、成人期へと移行できる症例が増加しました。しかしながら、成人診療科への移行に際しては小児科医師と成人診療科医師の連携が十分とは言えず、どの時点でどのような引継ぎが妥当かなどの議論もいまだ不十分です。患者さんを長期にわたって観察し、評価できる仕組み作りが喫緊の問題であるといっても過言ではないでしょう。現場のニーズに応えたシステム作りを、会員の皆様がご診療にあたっている地域事情を背景に、独自に考えて構築していかなければなりません。そのような想いを包含して、今回のもう一つのテーマ『移行期医療の構築』を考えてみたいと思っています。2015年からは国も施策として、厚生労働難病政策に移行期医療の充実を掲げてきています。生涯にわたり全人的、画一的な診断法や治療法はいまだ存在していないのが現状であり、これからは小児から成人までシームレスに研究・診療する体制を確立することが重要となるでしょう。

最後に、本学会がこれまでの諸学術集会に劣らず、小児リウマチ性疾患の原因解明と患者さんの生活の質の向上・改善をめざして熱く真摯な討論の場となり、研鑽を積む絶好の機会になることを切に望んでいます。皆様方のご参加を心からお待ちしております。

第28回日本小児リウマチ学会総会・学術集会 会頭
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座
森 雅亮