医療情報技師育成のグランドデザイン
−日本医療情報学会医療情報技師育成部会から−
山内 一信1)
名古屋大学医学部附属病院医療情報部1)
The grand design of cultivating Healthcare Information Technologists
Kazunobu Yamauchi1)
Department of Medical Information & Medical Records, Nagoya University Hospital1)
Abstract: Cultivating Healthcare Information Technologists(Healthcare ITs) is now one of the major projects of the Japan Association of Medical Informatics. We are now evaluating the project based on the two years' experience, and we will show proposals to improve the certifying examination, and also the next steps to cultivate the senior level of Healthcare IT and Healthcare CIO(Chief Information Officer).
Keywords: Healthcare Information Technologist, senior Healthcare IT, Healthcare CIO

1. はじめに
 医療情報技師育成は、今や日本医療情報学会の大きな事業の1つとなったが、講習会参加者数や能力検定試験受検者数を見てもこの事業に対する期待の大きさがわかる。2003年度から本格的に初級レベルの医療情報技師育成に取り組んできたが、この初級レベルの育成事業の評価や見直しはもちろん、当初からの構想である上級レベルの医療情報技師や医療情報最高責任者(医療のCIO:Healthcare Chief Information Officer) 育成についても計画を具体化する時期に来ている。広島で開催された日本医療情報学会シンポジウム2004でも、2つのワークショップで様々な角度から議論がなされ、第1回の能力検定認定者である医療情報技師からも上級のことや生涯教育のことなどの要望や提言がなされた。学会の責任においてこれらの事業を推進していくが、しかし、学会単独でできることには限界もあるので、本ワークショップでも発表のある医療情報技師の自主的な運営によるコミュニティサイトとの協力や、医療情報関係の育成機関、医療機関、メーカ・ベンダ、他の関連学会とも連携を深めながら、医療のITを担う人材育成を通じて医療界ひいては社会に貢献していきたい。
2. 医療情報技師育成の体制
 医療情報技師育成事業は、日本医療情報学会の1つの部会となっており、通常の学会活動とは別に複数の委員会で構成されている。全体を統括する企画調整委員会のもとで、次の各委員会がそれぞれ役割を分担して活動している。  また、各委員会では必要に応じてワーキンググループを組織したり、講習会開催や試験の実施に当たっては、地区ごとに実行委員会を設けるなど、学会内外の多くの方々の協力を得て柔軟に対応している。
3. グランドデザインの柱
 医療情報技師育成は、3つの領域に分けて、3つの類型、3つの事業で構成している。
 3つの領域は、医学・医療、情報処理技術、医療情報システムであり、医療情報システムという応用分野を扱うには、その基盤として、医学・医療と情報処理技術の基礎が必須であり、また、その応用の場としての医療の現場をよく知ることが重要であると考えている。さらに、医療情報技師の3Cと呼んでいる3つのC、すなわち、Communication, Coordination, Collaborationで表現される資質も重要である。
 3つの類型は、初級、上級、そして医療情報最高責任者(医療のCIO:Healthcare CIO)である。昨年からの講習会や能力検定試験は初級レベルであり、医療のCIOを見据えた上級の医療情報技師について現在具体化を進めているところである。
 3つの事業は、教科書編纂、講習会開催、そして能力検定試験の実施である。初級については2年間の経験から様々な課題も明らかとなっており、本ワークショップで改革案を提示する。上級、医療情報最高責任者についても同様の事業を計画していくが、内容は各レベルに応じてかなり変ったものになると考えている。
4. 初級の医療情報技師育成
4.1 講習会のあり方について
 2003年度、2004年度に実施した講習会は、2日間にわたり3つの領域各々について要点を講義したものであった。1年目の反省に立って2004年度は、講師講習会を開催してスライドの内容を十分に吟味するとともに、時間を延ばし、医療情報システム系を1日にするなどの改善を図ったが、受講者には必ずしも満足していただけなかった。2005年度に向けてさらなる改善案を検討しているが、少なくとも各科目2日間程度の集中講義を行い、医学医療系の方への情報処理技術講座や、情報処理技術系の方への医学医療講座など、的をしぼった講習会が必要であると考えている。
4.2 試験科目免除について
 現行では、厚生労働省管轄の医療系専門資格保有者と診療情報管理士については医学医療系の試験科目が、経済産業省管轄の情報処理技術者試験合格者(初級アドミニストレータと旧制度での2種は除く)については情報処理技術系の試験科目が、それぞれ免除されている。これは、医療情報技師への関心を高めその裾野を広げることに大きな貢献をしたことは間違いない。しかしながら、免除の基準は必ずしも公平ではなく、また、各資格取得にあたり、医療情報技師として必要な範囲がすべてカバーされているわけでもないことや、専門領域であればたとえ受検しても合格できるはずであることなどを考えて廃止の方向で検討すべきとの声が上がっている。将来にわたりこの医療情報技師が医療の現場で医療のIT化を推進する役割を担うことを考えればややハードルは高くなるかもしれないが、部会としても2年程の猶予期間をおいた上で、試験科目免除の廃止を提案したい。
4.3 更新制度導入について
 医療および情報処理の領域は、他の分野に比してもその環境の変化は激しいものがある。その2つの領域を基盤に持つ医療情報の世界もまた同様に大きな変化に日々さらされている。医療のIT化を担う医療情報技師としては、一度能力検定試験に合格したとしても、その知識や技術はすぐに陳腐化することからは逃れられないだろう。医療情報技師の存在価値を維持し高めるためにも、更新制度を導入し、学会活動や生涯教育を通じて評価することが必要である。他の学会で実施しているポイント制などを参考に早急に導入したい。
5. 上級の医療情報技師育成
 上級の医療情報技師育成については2007年度に上級の能力検定試験を実施することを目標に準備を始めた。上級の医療情報技師に必要な能力や資質は何か、それを検定するための試験はどうあるべきか、について検討している。
5.1 上級の医療情報技師とは
 上級の医療情報技師は、初級に合格していることと、医療情報システムに関わる実務経験を有することが条件になる。すなわち、初級で求められる医学・医療、情報処理技術、医療情報システムの3領域に渡る知識、技術力と、前述の医療情報技師の3Cを資質として有している上に、実務経験を積むことでその能力を高め、現場で自ら判断できる力を有する技術者である。管理職としての能力、病院経営やデータ分析に関わる能力などは必須となろう。
5.2 育成と能力検定試験
 上級の医療情報技師育成は、初級とは異なり、上級の教科書があってそれを勉強するようなものではなく、テーマごとの読み物風のハンドブックやセミナーを通して自ら学習してもらう形となる。
 上級の医療情報技師の能力検定では、記述式を中心とする問題や小論文の筆記試験による一次試験と、面接または実技試験による二次試験を検討している。医療機関の現場やメーカ・ベンダのシステム開発部門で力を発揮できることが重要であり、かなり厳しいものとなろう。全ての領域で高度な専門的能力を持つことが困難なことから、専門別の医療情報スペシャリストを認定することも考えている。
 研修委員会の中に上級医療情報技師の検討ワーキンググループが設置されて鋭意検討が進められており、ワークショップでより具体的な提案が出ることになっている。
6. 医療のCIO育成
 医療機関におけるCIOの役割として我々は、医療情報最高責任者(Healthcare CIO)を定義しその育成について検討している。まだ暫定的ではあるがその定義は次のようなものである。
 医療情報最高責任者(Healthcare CIO)は、限られた資源のもとで患者に最良の医療を提供するための経営改善に参画し、医療機関における情報技術の利用を統括し、情報技術をもって医療の安全確保、経営改善、医療の質向上のための戦略・方策を策定し、迅速な意思決定の推進をはかる。
 医療情報最高責任者に求められるのは、経営サイドに立つ役員の一員として医療経済・医療経営に関する能力が核となるため、必ずしも初級および上級の医療情報技師の延長上にあるわけではない。しかしながら、あくまでIT化推進のプロであるべきであり、CEO(Chief Executive Officer)と車の両輪の如く役割を分担していくことになろう。具体的な育成事業は本学会だけでは困難であり、様々な機関との連携が必要になると思われる。
7. おわりに
 医療情報技師育成事業は始まったばかりであり、課題は多い。ここに掲げたグランドデザインも、まだまだ検討の余地はあると考えており、育成部会において詳細を詰めていく。それが育成部会の独断とならず、医療情報技師や医療情報技師を目指す人、また、医療情報技師に期待を寄せておられる方々のニーズに沿ったものとなるよう、このワークショップにとどまらず、広く意見を交換していければと思う。